いちごのハウスでは、白い花の上でミツバチが動いていることがあります。食べるのは赤い実なのに、なぜ花に蜂が必要なのでしょうか。
ミツバチは花に集まる多くの雌しべへ花粉を運び、花を支える部分が膨らんで実になる過程を助けるために使われます。 蜂の働きは「実ができるか」だけでなく、「どのように膨らむか」にも関係します。

ミツバチは花の上で花粉を雌しべへ運びます
花の雄しべは花粉を作り、雌しべはその花粉を受け取ります。いちごでは、一つの花の中央に多くの雌しべが集まっています。ここへ花粉が届くことが、実を育てる入口になります。
ミツバチは蜜や花粉を集めるために花を訪れます。雄しべに触れたときに体に付いた花粉が、花の上を動く間に雌しべへ届きます。このように花粉が雌しべの先に付くことを「受粉」といいます。蜂が花で行っているのは、この花粉の移動です。

花粉が届く「受粉」と、内部で起こる「受精」は別です
花粉が付いた後は、花粉から「花粉管」という細い管が伸び、雌しべの内部へ進みます。管が運ぶ精細胞が内部の卵細胞と結び付くことが「受精」です。蜂は花粉を届けますが、受精そのものは花の内部で起こります。
多くのいちご品種は、自分の花粉でも受精できます。しかし、自分の花粉を使えることと、多くの雌しべへ花粉が十分に届くことは別です。ミツバチなどが花粉を運ぶ働きは、後者を助けます。

花での受精が、その後の花托の膨らみと実の形に関わります
いちごの赤い甘い部分は、花を支える「花托(かたく)」が膨らんだものです。花床(かしょう)とも呼びます。表面のつぶつぶは、それぞれ「痩果(そうか)」という小さな果実で、その中に種子があります。花にあった多くの雌しべが、後の小さな果実につながります。
受精後の小さな果実の側では、植物体内で生育を調節する「植物ホルモン」が働きます。オーキシンやジベレリンと呼ばれる物質が、花托の生育を支えます。
多くの雌しべで受精が進むと、花托がそろって膨らみやすくなります。一部で受精が進まないと膨らみ方が偏り、形がいびつになることがあります。花での花粉の届き方が、後の実の形にもつながるのです。
Klattらの研究は、ドイツの露地で複数品種を使い、虫が訪れる条件と、自家受粉・風による受粉の条件を比較しています。主な訪花者は野生の蜂でした。これを日本のハウスで使うミツバチの効果率とは扱わず、受粉と受精、果実の形をつなぐ仕組みとして参照します。

いびつないちごの原因をミツバチ不足だけにはできません
受精がうまく進まない原因は、花粉が届かないことだけではありません。茨城県園芸研究所の「いばらキッス」の研究報告では、次のような要因が整理されています。
| 関係するもの | 報告が挙げる要因 |
|---|---|
| 花粉を運ぶ昆虫 | ミツバチが花を訪れる回数の不足 |
| 花粉・雌しべ | 花粉の受精能力の低下、雌しべの異常 |
| 生育環境・管理 | 低温・高温、日照不足、過剰な施肥など |
表の出典:茨城県園芸研究所「イチゴ『いばらキッス』の奇形果発生条件と適正な生育管理」(2023年8月31日公開、2026年9月30日確認)。特定品種の研究を起点とする整理で、すべての品種に同じ栽培処方を示す表ではありません。
つまり、いびつな実を見ただけで「この農場はミツバチが少なかった」とは判断できません。花の状態と環境も含めて見る必要があります。
生産者は巣箱だけでなく、花と蜂の活動も確認します
ミツバチを使う生産者は、巣箱を置くだけで作業を終えません。熊本県の協議会の資料は、花の量と蜂の規模を合わせ、実際に蜂が飛んでいるかを見て、温湿度や薬剤の影響にも注意するよう示しています。
花が少ないときに蜂を入れたり、巣箱を多くしすぎたりすると、蜂の維持や果実品質の問題につながる場合があります。「蜂を増やせば必ずよい」とは言い切れません。

苗から収穫までの流れは「いちごはどうやって作られる?」で確認できます。ハウスのミツバチは、花粉を必要な雌しべへ届け、実の形成と膨らみ方を支えるために使われているのです。
参考・出典
- 岩手県農業研究センター「いちごハウスの働きバチに感謝」(2026年2月26日更新、2026年9月30日確認)
- 農水省「いちごのあれこれ豆知識」(2019年12月、2026年9月30日確認)
- 東京大学「植物ステロイドホルモンの謎解明」(2025年6月20日公開、植物の受精過程の説明を参照、2026年10月1日確認)
- Klattら「Bee pollination improves crop quality, shelf life and commercial value」全文PDF(2014年、Proc. R. Soc. B 281:20132440、DOI:10.1098/rspb.2013.2440、2026年9月30日確認)
- 茨城県園芸研究所「イチゴ『いばらキッス』の奇形果発生条件と適正な生育管理」(2023年8月31日公開、2026年9月30日確認)
- 熊本県花粉交配用ミツバチ対策協議会「花粉交配用ミツバチの管理」資料(2025年2月改訂、2026年9月30日確認)
編集・図解:best earth編集部。アイキャッチはAIによるイメージです。本文図は記載した資料をもとに、AI画像生成で絵と短い日本語を一体作成し、編集部が文字・順序・因果関係を照合した概念図です。実在する人物・農場・企業・商品を再現した画像ではありません。

