いちごは春の果物なのに、なぜ冬に並ぶ?ハウス栽培の仕組み

冬のいちごの疑問を示す、売り場のいちごと栽培ハウスのイメージ
AI生成の概念的なイメージです。実在の農場を撮影した写真ではありません。

春の果物と聞くいちごが、冬の売り場にも並ぶのはなぜでしょうか。

冬のいちごは、まず苗に花になる準備をさせ、植えた後も地域に合う方法で花と実の生育を支えて収穫しています。 自然条件より早い時期に収穫する方法を「促成栽培」といいます。寒い地域ではハウスを暖める作型もありますが、それだけが理由ではありません。

自然条件では花芽から花と実へ進み、促成栽培では苗の準備後にハウスで花と実を育てる二つの流れ
図1:自然条件と冬出荷の流れを比べた概念図。具体的な時期と設備は地域・品種・作型で変わります。AI生成画像を編集部が確認しました。
目次

自然に育ついちごは春から初夏に実ります

いちごが自然条件で育つ場合、秋から冬の短い日と低い気温の下で「花芽」ができます。花芽とは、後に花になる株の部分です。その花芽が春に育って花を咲かせ、実が熟すのは春から初夏です。これが「いちごは春の果物」といわれる理由です。

ただし、すべての品種が同じ条件で花芽を作るわけではありません。この記事では、主に短い日と低い気温に反応して花芽を作る「一季成り性」のいちごを例にします。日長にあまり左右されず花芽を作る「四季成り性」の品種もあります。

冬の店頭で見るいちごは、春まで何もせず待った実ではありません。生産者が花を作る時期と、その後の育て方を調整した結果です。

花芽ができた後のいちごのつぼみ、白い花、赤い実を左から右へ並べた図
図2:花芽ができた後に進む、目に見えるつぼみ・花・実の順序。花芽分化の初期は顕微鏡で調べるため、この図のつぼみとは区別します。AI生成の概念図です。

冬出荷の第一歩は、苗に花芽を作らせることです

花芽は赤い実よりも、白い花よりも先にできます。「花芽分化」とは、苗の成長点が花を作る方向へ変わることです。花芽ができていない段階でハウスを暖めるだけでは、冬出荷の仕組みを説明できません。

一季成り性の促成栽培には、苗を育てている間に日を短くしたり、夜間に冷やしたりして、花芽形成を促す方法があります。

農研機構などがまとめた北海道の「とちおとめ」の作型では、生産者が花芽のできたことを顕微鏡で調べてから苗を定植します。この観察を「検鏡」といいます。「定植」は、苗を収穫まで育てる場所へ植えることです。これは一つの地域・品種の方法であり、全国の生産者が同じ処理をするわけではありません。

栃木県いちご研究所も、高冷地の涼しさや夜間の冷却を利用して、苗の花芽形成を促す育苗例を紹介しています。ここでも「苗の準備」がハウスへ植える前にあります。

苗を育て、顕微鏡で花芽を調べ、苗をハウスに植える順序を示す図
図3:花芽を検鏡してから定植する作型の一例。中央は観察用に葉と根を除いた試料で、右の植える苗とは分けて示しています。AI生成の概念図です。

花芽ができた後、ハウスは冬の生育を支えます

花芽の準備ができた苗を植えた後は、花を咲かせ、実を育てる段階です。寒い時期に加温する作型では、生産者はハウスの気温や株を植えた培地の温度を管理します。電灯を使う「電照」を行う例もありますが、農研機構の北海道の例では、電照の目的は花芽を作ることではなく、株の育ちを保つことです。

苗の段階では花芽を促すために短い日や涼しさを利用し、定植後には寒さの中でも株を育てます。この二つは目的が異なります。「冬に収穫できるのはハウスで暖めるから」だけでは、前半の苗の準備が抜け落ちます。

栃木県の栽培例では、夏の育苗から冬の出荷まで、次の順に進みます。月は栃木県いちご研究所が示す例で、全国共通の予定表ではありません。

栃木県の施設栽培例株・生産者の動き
7〜9月子苗を育て、花芽形成を促す
9月収穫用のハウスに苗を植える
10月花が咲く
11月〜翌5月育った実を収穫・出荷する

表の出典:栃木県いちご研究所「いちご栽培の1年」(2024年5月27日更新、2026年9月30日確認)。

苗の段階では花芽を促し、植えた後は花と実を育てる二段階の役割を比較した図
図4:苗の準備と定植後の環境づくりは目的が違います。加温・電照は作型によって異なります。AI生成図です。

暖房や電照の要否は地域と品種で変わります

冬に収穫するいちごを、どの地域でも同じ温度に暖めているわけではありません。農研機構が紹介する沖縄の促成栽培例では、冬も温暖なため、暖房や電照は必要とせず、簡易な雨よけハウスを使います。一方、年内の収穫を目指す場合は、苗に短い日と涼しい夜を経験させ、花芽形成を促します。

北海道の加温・電照を使う例と沖縄の例を並べると、共通点は「花芽を作る段階を見極めること」で、違うのはその後の設備や管理です。さらに、一季成り性と四季成り性でも花芽のでき方が違います。したがって、冬のいちごを一つのハウスの仕組みだけで説明することはできません。

寒い地域での加温・電照の例と、暖かい地域での簡易雨よけハウスの例を比較した図
図5:北海道の加温例と沖縄の非加温例を着想にした模式図です。特定の農場の設備や位置を再現した画像ではありません。

収穫したいちごは集荷・出荷を経て冬の店頭へ届きます

冬に実が熟しても、株に付いたまま店頭へ届くわけではありません。栃木県の例では、生産者が育った実を収穫・調整します。パックに詰めた実は、JAの集荷所から市場などへ出荷され、スーパーなどの店頭に並びます。これは栃木県が紹介する経路の一例です。

つまり、冬の売り場は「苗で花芽を用意する → ハウスなどで花と実を育てる → 収穫・出荷する」という一連の工程の結果です。自然条件で春から初夏に実るという説明と、冬に店頭で買えるという事実は矛盾しません。

苗づくり、花と実の生育、収穫と出荷、店頭の順を示す図
図6:冬の売り場につながる工程の全体像。時期や担当の分け方は産地によって違います。AI生成の概念図です。

いちご作り全体の流れは「いちごはどうやって作られる?」で確認できます。ここでの答えは、冬のいちごは、先に苗の花芽を整え、地域に合った方法で冬の生育を支えて収穫しているから店頭に並ぶ、ということです。

ほかの食べものの季節と供給を比べるなら、「レタスの産地はなぜ季節で変わる?」と「トマトは夏野菜なのに、なぜ一年中買える?」も参考になります。

参考・出典

編集・図解:best earth編集部。アイキャッチはAIによるイメージです。本文図は記載した資料をもとに、AI画像生成で絵と短い日本語を一体作成し、編集部が文字・順序・因果関係を照合した概念図です。実在する人物・農場・企業・商品を再現した画像ではありません。

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この記事を書いた人

best earth編集部のアバター best earth編集部 食べものの疑問を、農業から読み解く編集部

食べものの「なぜ?」を、農業から解き明かす編集部です。公的機関・大学・研究機関などの一次情報を確認し、作り方、育つ仕組み、産地、環境、技術を図解でわかりやすく紹介します。

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