じゃがいもを「種いも」から育てるのはなぜ?繁殖と検査の仕組み

芽のあるじゃがいもと芽のないじゃがいもを手に持ち、種いもの意味を問うイメージ
AIによるイメージをもとにbest earth編集部作成。実際の農場を撮影した写真ではありません。

じゃがいもを育てるとき、農家が畑に植えるのは小さな種子ではなく、じゃがいもそのものです。この「種いも」には、どんな意味があるのでしょうか。

種いもの芽を使うと、親と同じ遺伝的な性質を持つ株を増やせます。ただし、感染したいもから病気を広げるおそれもあるため、種いもを増やす仕事には、健全性を確かめる検査が組み合わされています。

まずは種子と種いもの違いを見て、その後で、産地へ届くまでの増殖と検査をたどります。

芽で株を増やすことと種いもの健全性を確かめることを二つのカードで示す図
図1:種いもは芽で増やす材料であり、健全性を確かめる対象でもあります。地下の器官は省略し、矢印は生長の関係を示しています。虫眼鏡は検査の象徴で、ウイルスを見た目だけで判定できるという意味ではありません。AIによるイメージをもとにbest earth編集部作成。
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種いもは「種子」ではなく、芽のあるいも

種いもは、畑に植えて次の株を育てるためのじゃがいもです。いもの表面にあるくぼみには芽があり、そこから茎が伸びます。いもは太った茎の一部で、植物の形を説明する言葉では「塊茎(かいけい)」と呼びます。

植物の体の一部を使い、種子をまかずに株を増やす方法が「栄養繁殖(えいようはんしょく)」です。ここでの「栄養」は食品の栄養価の話ではなく、茎などの器官を使う繁殖を意味します。

つまり、種いもという名前の「種」は、次の栽培の出発点という意味です。種子という器官になったわけではありません。

いもと根の位置関係は、じゃがいもは根ではなく茎?土の中でいもが育つ仕組みで詳しく説明しています。

種いもなら品種を保ち、種子では性質が分かれる

種いもを使う利点は、原則として遺伝的に同じ株を増やせることです。ある品種を続けて作りたいとき、いもの芽から増やす方法がその性質を保つことにつながります。

一方、じゃがいもの種子から育てると、株ごとに遺伝的な性質が異なります。種子を使うことと、同じ品種をそのまま増やすことは違います。「じゃがいもは種子から育たない」という意味ではありません。

品種の性質を保つことは、毎回同じ大きさや品質のいもがとれるという保証とも別です。病害の影響だけでも収穫物は変わるため、遺伝的な性質と栽培の結果を分けて考えます。

種いもによる繁殖と種子による繁殖で品種の性質の受け継がれ方が異なることを比べる図
図2:種いもは原則として品種の遺伝的な性質を保ちますが、同じ大きさや品質の収穫を保証しません。種子の絵は拡大し、いもの色と大きさは性質の違いを模式化しています。特定の交配結果を予測した図ではありません。いもは収穫物として株と離して描き、地下の器官は省略しています。AIによるイメージをもとにbest earth編集部作成。

感染した種いもは病気も次の株へ持ち越す

芽から増やす方法には弱点もあります。種いもがウイルス病や細菌病などに感染していると、種苗を通じて病気が産地へ広がるおそれがあります。

品種を保って増やすことと、健全な材料から増やすことは別の条件です。いもに芽があるというだけでは、病害の有無を確かめたことにはなりません。

原原種から、役割を分けて種いもを増やす

日本の種いもの供給体系では、農研機構の種苗管理センターが病害検査を行いながら、増殖の起点となる「原原種(げんげんしゅ)」を作ります。原原種は、次の段階で増やすための元だねです。

元だねから先は、担当が段階的に増やして引き継ぎます。

段階主な担当何をするか
原原種農研機構・種苗管理センター増殖の出発点となる元だねを作る
原種(げんしゅ)道県など原原種を受け取り、次の増殖用に増やす
採種(さいしゅ)農業団体・採種農家など一般の生産農家へ渡す種いもを増やす
一般栽培生産農家受け取った種いもから、出荷するじゃがいもを育てる

出典:農研機構パンフレット冊子p07と農畜産業振興機構の2016年調査。2026年10月1日確認。国内供給体系の概略です。

「採種」という名称でも、この体系では花から種子を採る作業ではありません。種いもを増やす段階を指します。

原原種から原種、採種、一般栽培へ材料を増やす段階を示す図
図3:元だねから段階的に増やし、一般栽培へ渡します。「採種」はここでは種いもを増やす段階で、花から種子を集める意味ではありません。担当は本文の表で示します。いもや箱の個数は増殖率や生産量を表していません。AIによるイメージをもとにbest earth編集部作成。

増殖の順序は原原種、原種、採種、一般栽培です。元だねからすぐ全農家へ渡すのではなく、段階ごとの担当が増やす仕事を引き継ぐのです。これは供給体系の概略で、すべての品種や流通経路を示すものではありません。

検査は植付け前・栽培中・収穫後に行う

植物防疫所の説明では、指定種苗としての種いも検査は、植付け前の畑と種いも、栽培期間中、収穫後のいもの三段階で行われます。三段階すべてに合格した種いもへ、種馬鈴しょ合格証票が発給されます。

植付け前の畑と種いも、栽培中の畑と株、収穫後の種いもという検査対象の図
図4:指定種苗検査地域での検査を三つの時期に分けた概念図で、検査回数を示す図ではありません。虫眼鏡や記録用紙は検査の象徴です。すべての対象を目視だけで検査する、すべてのいもを個別に調べるという意味ではありません。AIによるイメージをもとにbest earth編集部作成。
時期確認する対象
植付け前種いもを植える予定の畑と、植える種いも
栽培中畑と、そこで育っている株
収穫後生産された種いも

出典:植物防疫所「国内種苗の検査について」。2026年10月1日確認。検査の概要であり、すべての病害を同じ方法で確認するという意味ではありません。

収穫いもの見た目だけではなく、育てる畑と株まで確認する仕組みです。

対象地域と病害虫には範囲がある

植物防疫所の掲載内容では、検査対象地域は北海道、青森県、岩手県、福島県、群馬県、山梨県、長野県、岡山県、広島県、長崎県、熊本県です。

区分掲載されている対象
害虫ジャガイモガ/ジャガイモシストセンチュウ/ジャガイモシロシストセンチュウ
病気馬鈴しょウイルス/輪腐病菌/青枯病菌/そうか病菌/粉状そうか病菌/黒あざ病菌/疫病菌

対象地域・病害虫の出典:植物防疫所「国内種苗の検査について」。確認日:2026年10月1日。対象は変更される可能性があるため、最新情報は原典で確認してください。

検査の担当も区別が必要です。植物防疫官による検査のほか、都道府県や農研機構が自ら生産し検査する場合にも、農林水産大臣が定めた基準があります。すべての段階を植物防疫官が直接見る、という説明にはできません。

検査合格は、すべての病気がゼロという意味ではない

実施要領には、検査の方法や病害虫ごとの合格基準が定められ、抽出して調べる検査の規定もあります。編集部は、この制度の合格を「対象と基準に適合したこと」と読み取ります。あらゆる病気が一切ないという意味へ広げません。

検査対象の地域や病害虫は、制度の範囲に条件があります。国内のすべてのじゃがいもを、すべての病気について一個ずつ検査する制度、という説明ではありません。

まとめ:種いもで品種を保ち、検査で健全性を確認する

品種を保つこと、感染を持ち越す可能性、段階的な増殖、検査の範囲を四区画でまとめた図
図5:感染した材料では病気を次へ持ち越すことがあります。警告記号は感染を見た目で診断する印でも、食用としての危険を判定する印でもありません。箱の数は増殖段階や数量と一対一に対応しません。合格は対象と基準への適合であり、すべての病気がゼロという保証ではありません。AIによるイメージをもとにbest earth編集部作成。

種いもを使う理由は、いもの芽から品種の遺伝的な性質を保って増やせるからです。その一方で、感染した種いもを出発点にすれば、病気を広げるおそれもあります。

元だねから担当を分けて増やし、植付け前・栽培中・収穫後に確認するのは、この二つの性質に対応するためです。種いもは、ただ芽が出るいもではなく、次の生産を支える材料として管理されているのです。

参考・出典

種いもを植えてから収穫するまでの全体像は、じゃがいもはどうやって作られる?種いもから収穫までを図解へ戻って確認できます。

資料確認日:2026年10月1日。制度の対象・基準は変更される可能性があります。本稿は仕組みの解説で、個別の移動・検査・増殖の可否を判断する法律相談ではありません。

編集・図解:best earth編集部。アイキャッチはAIによるイメージです。本文図は記載した資料をもとに、AI画像生成で絵と短い日本語を一体作成し、編集部が文字・順序・因果関係を照合した概念図です。実在する人物・農場・企業・商品を再現した画像ではありません。

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この記事を書いた人

best earth編集部のアバター best earth編集部 食べものの疑問を、農業から読み解く編集部

食べものの「なぜ?」を、農業から解き明かす編集部です。公的機関・大学・研究機関などの一次情報を確認し、作り方、育つ仕組み、産地、環境、技術を図解でわかりやすく紹介します。

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