じゃがいもを育てるとき、農家が畑に植えるのは小さな種子ではなく、じゃがいもそのものです。この「種いも」には、どんな意味があるのでしょうか。
種いもの芽を使うと、親と同じ遺伝的な性質を持つ株を増やせます。ただし、感染したいもから病気を広げるおそれもあるため、種いもを増やす仕事には、健全性を確かめる検査が組み合わされています。
まずは種子と種いもの違いを見て、その後で、産地へ届くまでの増殖と検査をたどります。

種いもは「種子」ではなく、芽のあるいも
種いもは、畑に植えて次の株を育てるためのじゃがいもです。いもの表面にあるくぼみには芽があり、そこから茎が伸びます。いもは太った茎の一部で、植物の形を説明する言葉では「塊茎(かいけい)」と呼びます。
植物の体の一部を使い、種子をまかずに株を増やす方法が「栄養繁殖(えいようはんしょく)」です。ここでの「栄養」は食品の栄養価の話ではなく、茎などの器官を使う繁殖を意味します。
つまり、種いもという名前の「種」は、次の栽培の出発点という意味です。種子という器官になったわけではありません。
いもと根の位置関係は、じゃがいもは根ではなく茎?土の中でいもが育つ仕組みで詳しく説明しています。
種いもなら品種を保ち、種子では性質が分かれる
種いもを使う利点は、原則として遺伝的に同じ株を増やせることです。ある品種を続けて作りたいとき、いもの芽から増やす方法がその性質を保つことにつながります。
一方、じゃがいもの種子から育てると、株ごとに遺伝的な性質が異なります。種子を使うことと、同じ品種をそのまま増やすことは違います。「じゃがいもは種子から育たない」という意味ではありません。
品種の性質を保つことは、毎回同じ大きさや品質のいもがとれるという保証とも別です。病害の影響だけでも収穫物は変わるため、遺伝的な性質と栽培の結果を分けて考えます。

感染した種いもは病気も次の株へ持ち越す
芽から増やす方法には弱点もあります。種いもがウイルス病や細菌病などに感染していると、種苗を通じて病気が産地へ広がるおそれがあります。
品種を保って増やすことと、健全な材料から増やすことは別の条件です。いもに芽があるというだけでは、病害の有無を確かめたことにはなりません。
原原種から、役割を分けて種いもを増やす
日本の種いもの供給体系では、農研機構の種苗管理センターが病害検査を行いながら、増殖の起点となる「原原種(げんげんしゅ)」を作ります。原原種は、次の段階で増やすための元だねです。
元だねから先は、担当が段階的に増やして引き継ぎます。
| 段階 | 主な担当 | 何をするか |
|---|---|---|
| 原原種 | 農研機構・種苗管理センター | 増殖の出発点となる元だねを作る |
| 原種(げんしゅ) | 道県など | 原原種を受け取り、次の増殖用に増やす |
| 採種(さいしゅ) | 農業団体・採種農家など | 一般の生産農家へ渡す種いもを増やす |
| 一般栽培 | 生産農家 | 受け取った種いもから、出荷するじゃがいもを育てる |
出典:農研機構パンフレット冊子p07と農畜産業振興機構の2016年調査。2026年10月1日確認。国内供給体系の概略です。
「採種」という名称でも、この体系では花から種子を採る作業ではありません。種いもを増やす段階を指します。

増殖の順序は原原種、原種、採種、一般栽培です。元だねからすぐ全農家へ渡すのではなく、段階ごとの担当が増やす仕事を引き継ぐのです。これは供給体系の概略で、すべての品種や流通経路を示すものではありません。
検査は植付け前・栽培中・収穫後に行う
植物防疫所の説明では、指定種苗としての種いも検査は、植付け前の畑と種いも、栽培期間中、収穫後のいもの三段階で行われます。三段階すべてに合格した種いもへ、種馬鈴しょ合格証票が発給されます。

| 時期 | 確認する対象 |
|---|---|
| 植付け前 | 種いもを植える予定の畑と、植える種いも |
| 栽培中 | 畑と、そこで育っている株 |
| 収穫後 | 生産された種いも |
出典:植物防疫所「国内種苗の検査について」。2026年10月1日確認。検査の概要であり、すべての病害を同じ方法で確認するという意味ではありません。
収穫いもの見た目だけではなく、育てる畑と株まで確認する仕組みです。
対象地域と病害虫には範囲がある
植物防疫所の掲載内容では、検査対象地域は北海道、青森県、岩手県、福島県、群馬県、山梨県、長野県、岡山県、広島県、長崎県、熊本県です。
| 区分 | 掲載されている対象 |
|---|---|
| 害虫 | ジャガイモガ/ジャガイモシストセンチュウ/ジャガイモシロシストセンチュウ |
| 病気 | 馬鈴しょウイルス/輪腐病菌/青枯病菌/そうか病菌/粉状そうか病菌/黒あざ病菌/疫病菌 |
対象地域・病害虫の出典:植物防疫所「国内種苗の検査について」。確認日:2026年10月1日。対象は変更される可能性があるため、最新情報は原典で確認してください。
検査の担当も区別が必要です。植物防疫官による検査のほか、都道府県や農研機構が自ら生産し検査する場合にも、農林水産大臣が定めた基準があります。すべての段階を植物防疫官が直接見る、という説明にはできません。
検査合格は、すべての病気がゼロという意味ではない
実施要領には、検査の方法や病害虫ごとの合格基準が定められ、抽出して調べる検査の規定もあります。編集部は、この制度の合格を「対象と基準に適合したこと」と読み取ります。あらゆる病気が一切ないという意味へ広げません。
検査対象の地域や病害虫は、制度の範囲に条件があります。国内のすべてのじゃがいもを、すべての病気について一個ずつ検査する制度、という説明ではありません。
まとめ:種いもで品種を保ち、検査で健全性を確認する

種いもを使う理由は、いもの芽から品種の遺伝的な性質を保って増やせるからです。その一方で、感染した種いもを出発点にすれば、病気を広げるおそれもあります。
元だねから担当を分けて増やし、植付け前・栽培中・収穫後に確認するのは、この二つの性質に対応するためです。種いもは、ただ芽が出るいもではなく、次の生産を支える材料として管理されているのです。
参考・出典
種いもを植えてから収穫するまでの全体像は、じゃがいもはどうやって作られる?種いもから収穫までを図解へ戻って確認できます。
- 福岡教育大学・福原達人「地下貯蔵器官と栄養繁殖」
- 農畜産業振興機構「北海道における種ばれいしょの安定供給に向けた取り組み」(2016年。繁殖と供給の基本を参照)
- 農研機構「種苗管理センター パンフレット」(冊子p07)
- 植物防疫所「国内種苗の検査について」
- 植物防疫所「種馬鈴しょ検疫実施要領」
- 植物防疫所「種馬鈴しよの検査について農林水産大臣の定める基準」
資料確認日:2026年10月1日。制度の対象・基準は変更される可能性があります。本稿は仕組みの解説で、個別の移動・検査・増殖の可否を判断する法律相談ではありません。
編集・図解:best earth編集部。アイキャッチはAIによるイメージです。本文図は記載した資料をもとに、AI画像生成で絵と短い日本語を一体作成し、編集部が文字・順序・因果関係を照合した概念図です。実在する人物・農場・企業・商品を再現した画像ではありません。

